趣旨

 今、渋谷の街に変化が起きようとしている。渋谷駅を中心とした大規模な再開発が始まり、巨大化した駅の高層部には商業施設やオフィスが集約され、歩行者動線は整理され、高架デッキが空中を結ぶ。全ての事業が完成する2027年には、駅周辺の姿は大きく様変わりすることになる。
 渋谷という街は、新宿とも池袋とも違う、独自のエネルギーを持っている。この街の特性を生み出しているのは、その独特な地形によるところが大きい。すりばち状の地形の底に渋谷駅があり、中心から放射状に他の街へと街路が伸び、その間を網状の街路が結ぶ。坂や細い抜け道といった微細な地形の変化は、そこに多様な文化が根付くことを許容する。この文化の多様さが、渋谷という街の活気と、それでいてどこか危うげな空気を生み出している。
 渋谷を歩く人々は、ハチ公広場のあるスクランブル交差点という街の玄関口から、放射状に伸びるストリートの奥へと向かう流れにのって、渋谷という街を経験する。それぞれの個人はそれぞれの目的地を目指し、それぞれの居場所を見つける。渋谷は多様な個を受け入れる懐の広さと奥の深さを持ち、それ故に、多様な個が共存する都市空間を作り上げている。この都市空間としての包容力が、多くの若者を引き付ける街のエネルギーを生み出しているのだろう。
 いま渋谷で起ころうとしている変化は、渋谷という街の包容力に何らかの影響を与えるのだろうか。それとも、この街はその変化さえも飲み込んで、新たなエネルギーに変えるのだろうか。街の大きな変化を目前にして、私達が今とるべきデザインの戦略はなんだろうか。
 多様な個の共存。渋谷のパブリックスペースにおいてそれは象徴的に表れている。多い時には一度に3000人が交錯するスクランブル交差点は、渋谷を象徴する風景であり、メガシティ・東京のシンボルともなっている。さらに、街の中の広場や街路といった多種多様なパブリックスペースの存在が、渋谷の多様性を支えている。
 街に散らばるパブリックスペースを戦略的にデザインすることによって、いま渋谷で起ころうとしている変化を、これまでの渋谷が蓄えてきた都市の文脈や空間の価値体系の中に取り込み、よりゆたかな街としてのエネルギーに昇華させることができないだろうか。
 本ワークショップの目的は、ハチ公広場を核に渋谷駅周辺のパブリックスペース群のデザインを戦略的に検討し、渋谷という都市空間の未来を提示することである。